COLUMN

2014.10.01  
CASBEE

 設計者として建物の評価を受ける時、その優劣を計る客観的基準があると助かるなと思う事があります。およそ建物の評価は個別主観的で人によって異なります。クライアントの満足、不満足感がそのまま評価になります。もちろんこれも大事な評価です。しかしそれとは別の客観的基準があればクライアントにとっても物差しとして重宝なはずです。例えば、住宅であれば単に暑い寒いではなくQ値でその性能を評価するようにです。
 とは言ってもデザイン性のような ”感性” によるものは客観評価は難しいですから定量的に評価できるものだけ構わないと思います。しかしなるべく沢山の切り口で建物全体を評価する包括的なシステムが理想的です。
 すでに物差しになりそうな制度は沢山あります。住宅性能表示制度、BELS、長期優良住宅認定制度、低炭素建築物認定制度、省エネ法、etc。
 制度設立の背景は温暖化、耐震上の問題など様々な社会問題です。必要に迫られての事です。義務、任意、両方の制度があります。任意の制度は、優遇金利、優遇税制などメリットを設けて普及を図っています。義務とインセンティブ、すなわちアメとムチです。どの制度も建物の性能向上につながりますから積極的に活用されてもいいはずです。しかし、普及はいまひとつ。例えば住宅性能表示

制度」の近年の普及率は20%程度だそうです。なぜでしょう。似たような制度が多すぎる?費用対効果が低い?手続きが煩雑?提供側のプロモーションが下手?よくわかりませんが制度そのものが目的化し、建物品質を計る物差しとしては使い勝手が悪いからではないでしょうか。アメとムチではどちらも効かないのではないでしょうか。
 もう一つCASBEEとういう制度があります。「建築環境総合性能評価システム」長くて覚えられません。キャスビーと言います。建物の品質を ”5段階のランク(S、A、B+、B-、C)と星の数” で格付けしようというシステムです。エコの度合いを可視化します。
http://www.ibec.or.jp/CASBEE/

評価プロセスは結構な手間がかかるようですが、包括的で結論が分かりやすいシステムです。評価項目は多岐にわたり、大きくは二つの側面を評価します。一つは建物を含む ”敷地内” の品質。「音環境、温熱環境、光・視環境、空気室環境、耐震性」などを評価します。もう一つは ”敷地外” へ及ぼす環境負荷。「省エネ性、資源保護、持続可能な資源の利用、CO2削減対策、大気汚染対策」などを評価します。つまり自分と社会の両方にとって建物がどの程度の利益をもたらすかを総合点で評価します。

 この制度がユニークなのは”ツールであるという事です。他の制度にはない発想です。ールですので様々な利用方法があります。従来のような国や自治体の制度はもちろん、設計の自己評価、クライアントへの説明用、資産評価用にと。他の制度とのリンクも設定されており、活用も広がっているようです。
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 当事務所では設計の自己評価用に導入を検討しています。設計の質を担保するのが目的です。最終的にクライアントへ提示できれば物差しとしての利用価値は高いと考えています。



2014.06.01  
時間

建物は ”時間” のフィルターを通して考える必要があります。時を経る事で万物は変化するからです。当たり前の話ですが実は忘れがちなのです。なぜかというと設計者の仕事は建物が完成すると終わるからです。そこが仕事としてはゴールなのです。ところが建物はそこがスタート。そしてその先が大変長い。つまり仕事の完了と評価が時間的にズレるのです。評価自体が完成した瞬間と時を経たある時点では変化するのです。実はこれがこの仕事の難しさであると考えるようになりました。
 クライアントに恵まれ自分の設計した建物を10、15年と観察しています。すると予想もしない変化に遭遇します。設計時には全く想定出来ないような変化です。もちろん未熟さ故とも言えますが、設計図を仕上げ、工事が終わり、達成感に包まれるのはごく一瞬である事を痛感するのです。
 さて時を経て変化するものの代表選手が劣化でしょう。設計者はこれを念頭に建材を選びます。耐劣化性能はコストとトレードオフの関係です。お金の掛け方が劣化具合を左右するのです。つまりイニシャルのローコストは将来にツケを廻す事でもあるのです。
 さらにライフサイクルコストという概念があります。”建物の一生に掛かる費用” の事です。設計から解体までかかるコストを積み上げます。設計費、建設費から始まって、完成後の水道高熱費、保全費、修繕費、保険、等すべてです。その中で建物が誕生するまでの費用(設計+建設費)はせいぜい20〜30%。

そうです、完成後の方がはるかに出費がかさのです。工事発注時にその認識のある建て主は少ないのではないでしょうか。これは設計者の説明不足もあるでしょう。いずれにしろ設計段階からこの認識を持ち、可能であればある程度のシミュレーションをしておきたいものです。さらにそれを設計にフィードバックし、長い目で見たコストパフォーマンスを追求します。その上で予め長期予算計画をたてておければ理想です。”こんなはずではなかった” とならないように。なにせ事はずっと先に起こるのですから。
 同じ劣化でも ”デザインの劣化” は悩ましい問題です。長寿命な製造物のもつ宿命です。陳腐化しないデザイン。難題です。しかし世の中には生き残るデザインが沢山存在しています。ですからこれは設計者の力量が問われるテーマと言えるでしょう。
 もうひとつ変化する大事なものがあります。それは ”ヒト” です。これが大変悩ましい問題です。ヒトとは建物の住人であり、利用者であり、その営みも含みます。ヒトは年をとり家族構成も変わります。企業であれば人数、組織形態が変わりま。社会構造や生活スタイルもどんどん変わります。昨今はますますスピードが増しているように感じます。感覚的に20年あれば大変化です。そして劣化と違い想定が難しいのです。
 ところで建物の寿命は何年でしょう。住宅であれば日本は30年程度、海外の先進国と比較すれば大変短命です。スラップアンドビルドを繰り返す国です。制度がなせる技なのでしょうか。

それでも30年もあれば相当な変化です。そこへ近年 ”200年住宅” というコンセプトが登場しました。設計者としては魅力的な響きです。さてどう設計しますか?夫婦と子供二人の4人家族。子供が一人独立し、同居の子供が結婚し、孫が2人できて6人家族。自分はおじいちゃんになり、おばあちゃんが他界し5人家族。そこまでせいぜい50〜60年。あと150年あります。その後、誰が、どんな生活を営むのでしょう。どう想定しておきますか? 甘い響きですが思考停止に陥ります。さらに企業や公共、商業施設であれば、よりドラスティックな変化の可能性もあります。
 明日の理想を求めた設計は20年後すでに『不都合な真実』の可能性が高いのです。その意味で設計はジャストフィットよりルーズフィットが良いかもしれません。部屋を小割りにせず家具で仕切る程度です。レイアウトでその時々の最適化を図ります。あるいは昔の日本家屋のようにフスマで間仕切り開閉によって部屋の広さをアジャストしますか。いやその必要はない、”ヒトが建物に合わせれば良い” と割り切りますか。
 設計者としては長く利用される建物を作りたい、しかしその分ジレンマも大きい。いっそ20年で解体する設計もありか。皆様はどう考えますか。
 全ての変化は ”時間” の経過がもたらします。時を経ても変わらない良さ、美しさ、愛着、そんな建物を設計するのがこの仕事の本当の醍醐味なのかもしれません。大変です。


2014.02.01  
3つの職能

ザイン、エンジニアリング、コストコントロール。設計者はこの3つの職能を駆使して仕事します。
 ”デザイン” は形態を操作し人の美意識や使い勝手、感触、広さ感といった心理面に働きかける技術です。対象を感性で捉えて形にします。曖昧模糊としていて捉えどころが難しい世界です。しかしこの能力こそが建物を魅力的なものにします。
 ”エンジニアリング” は文字通り施工技術や工学的なもの。理系です。構造、設備、電気、環境、建材などの物理現象

を扱い、建物の性能を制御します。人間で言えば、骨、頭脳、筋肉、内蔵、神経、血管といったところでしょうか。
 ”コストコントロール” とは ”損得勘定” の事です。どれが得か。全体と部分を行き来しコストパフォーマンスを追求します。
 職域は広大で一人ではカバー出来ません。一つ一つに深い専門知識を要します。プロジェクトの内容に応じ構造や設備なと主要なエンジニアリングはエキスパートと恊働します。コストコントロールはクライアントの予算を前提にすべて

の作業とリンクしながら進めます。
優先順位はコスト→エンジニアリング→デザインです。デザインは最高、しかし夏暑く冬寒いとか、結露するとか、雨漏りするとか、予算が大幅超過になったとか、ではNGなのです。予算内で、かつ高いクオリティーで性能を満たし、その上で優れたデザインを構築する。これが求められている職能と考えています。どの職能も等しく重要で、かつ優先順位を間違えない事が肝心です。